報われなかった心の行き先
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報われなかった心はどこへ行くのか。
報われなかった努力はどこへ行くのか。
人は、どんなに愛しても応えてくれるとは限らない。
夢は、どんなに努力しても叶うとは限らない。
「夢は必ず叶う」だとか、
「どうせ叶わないんだから諦めろ」とか、
どちらも無責任過ぎて言えないよ。
どんなに愛しても、愛してもらえなかったことがある。
どんなに努力しても、叶わなかった夢がある。
これは卑屈なんかじゃなくて、悲しいけど、事実だからさ。
***
それは、私がまだ幼かった時のこと。
お酒の匂いが充満する部屋。
ゴミだらけのお家。
そんな中、私は母が寝ている間に、
シンクに山のように積まれていた食器たちをまとめてこっそり洗ってやった。
きっと、寝て起きたらあの食器の山がきれいさっぱり片付いていて、母は驚くに違いない。
そしたらきっと、私をほめてくれるに違いないだろう、と期待に胸を膨らませた。
だから私は、何も言わずにじっと待っていた。
母の様子を横目に見ながら、気づいてくれるのは今か今かとワクワクしていた。
けれども。
けれども、母は何も言わなかった。
食器が片付いていることに、気づくことさえしなかった。
そうしてしばしの間だけ起きて、
またお酒を飲んで、
またすぐに眠ってしまったのだった。
そっか、そっか、
そんなことって、あるんだなぁ。
私の努力はどこへ行ったのか。
どこへ消えてしまったのか。
行き場をなくした期待と、少しのうわついた心。
悲しかった。
でも、悲しいとも言えなかった。
気づいてほしかった。
でも、気づいてほしいとも言えなかった。
何も言わなくたって、私に気づいて、私を見てほしかった。
ただ、それだけだったのに。
そんなことさえ、かなわないのだなぁ。
***
報われなかった努力は、どこへ行くのか。
どこかへ消えて、なくなってしまうのか。
消えてしまうのはいやだなぁ。
かわいそうだなぁ。
自分の小さな、小さな努力。
こんなちっぽけな努力だとしても、
やっぱり、誰にも気付かれずに消えてしまうのは、悲しいよ。
でもね。でも。
愛したこと、努力したことは消えたりはしない。
確かに報われないこともあったけど、消えてしまったわけじゃない。
愛したこと、努力したこと。
人は報いてくれなくても、努力した事実は自分に報いてくれるから。
誰かのために何か一つでも行ったこと、
真心を込めたこと、
それは見えない自分の栄養になって、
自分をもっと素敵に作ってくれる。
真心は目に見える血となり肉となるわけではないけれど、
目に見えないもう一人の自分の血となり肉となってくれるんだ。
誰に見向きされなくとも、
続けた努力や真心は自分をしっかり作ってくれて。
いつか、そんな自分の見えない本当の姿を見つけてくれる人に出会えるから。
人に報われなかった努力は、消えたりはしない。
今日も見えない自分の姿を、きれいに作って輝かせてくれているんだ。